排水ポンプの駆動音が鳴り響く中、住民たちが浸水家屋から戸棚や冷蔵庫を運び出す作業に追われていた。きのうの午後、多摩川に近い川崎市高津区の住宅街を歩いた。台風19号による被災地のひとつである▼「自宅3階で目覚め、早朝、1階に下りたらソファがプカプカ浮いていました。1階が水没したのは初めてです」と地元の40代男性。台風一過の秋空の下、どろを拭く作業に汗を流した。終わりの見えない作業にため息をつく▼現場は、多摩川に支流の平瀬川が注ぐところ。住民の多くは無事だったが、浸水したマンションの1階で60代の男性が亡くなっている。19号は東日本のほぼ全域に暴風雨をもたらして太平洋沖へと去った▼今回、氾濫(はんらん)した河川は驚くほど多い。多摩川や千曲(ちくま)川、阿武隈川など広く知られた河川もあれば、都幾(とき)川や越辺(おっぺ)川、秋山川、九十九(つくも)川などこれまでの取材や旅行では縁のなかった河川もある▼気象庁が公表している「危険度分布」には、河川氾濫の危険度が紫、赤、黄の色で示されている。対象は全国の中小河川約2万1千で、川崎市の平瀬川の位置もわかる。被害河川を画面上で探すうち、無数の川がまるで列島を覆う毛細血管のように見えてきた▼同僚たちが各地で撮った映像を見てみる。屋根で布をふる家族、自衛隊ヘリで救助される高齢者、消防のボートで運ばれる女性……。あまりに氾濫地点が多く、写真を見ても場所に見当がつかない。私たちは歴史的な水害を目の当たりにしている。