1980年代の話である。脚本家の山田太一さんは、自宅ではなくアパートを借りて仕事をしていた。電話に邪魔をされたくないからだが、困るのは食事だ。深夜、空腹に耐えかねて外に出ても開いている店はない▼そんなときに道路に漏れる灯(あか)りが見えた。新聞で読んだことのある24時間営業のコンビニらしい。「これかァ。これなんだ。オレみたいなのが、都会にはきっと商売になるくらいいるんだ」とエッセーに書いている▼夜も眠らない店が珍しくなくなったのは、いつ頃からか。コンビニの先にまたコンビニがあるのが現代日本の風景である。それがここにきて曲がり角にさしかかっている。セブン―イレブンが拡大路線を改める▼1千店を閉店ないし移転する一方、新規の出店を抑えていくという。働き手が不足していると店主らから悲鳴があがるなか、店を増やし続けるのが難しくなった。業界では年中無休も見直され始め、ローソンは来年の元日に100店が休業する▼米国から取り入れられたコンビニは、日本で高度な発達を見せた。いつでも開いていて同じサービスが受けられる。しかしそれを可能にするためにどんな苦労があるか、目が向けられることが少なすぎた▼山田さんはコンビニを舞台にドラマの脚本を書き、登場人物に語らせた。「こういう店が、灯りをつけているだけでも、随分ほっとする人がいるんだろう」。訪れる人を包み込んできた店の灯り。これからは店を支える人たちを照らす灯りがいる。