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貧乏神
われわれの周りに神様はたくさんおられるのでございます。日本は神国と申しまして、海には海の神、山には山の神と、いろんな神様がおられるのですな。その中でありがたい神様が福の神でございまして、その団体様が七福神でございますな。恵比寿・大黒・毘沙門・弁天・布袋・福禄寿・寿老人で七福神。福の神でございますな。ありがたいのは出雲におられます、縁結びの神様で、出雲大社におられて、日本中の縁を結ばれるんですな。あっちこっちからこよりみたいなものが出てるんですな。それを向こうの神様が結ばはるんですな。あっちとこっちを結んだろ、と。で、しっかり結んだのは割合しっかりしてるんですが、夜なべして眠たいなぁ、もうだいたいでええがな...てなもんは、すぐ別れたりするんですな。一本余ったがな、どないしまひょ、じゃまくさい! こっちと一緒にまとめたろ、てなものはトライアングル、三角関係てなことになるんでしょうな。まことにありがたいことで。
家主 おい、どうした!?
男 いやぁ、面目ない
家主 面目ないやあれへんで。おまえ、また嫁はんに逃げられたちゅうやないかい。
男 ハッハッハッハ
家主 笑い事やあれへんが。どんならん、のんきな男や
男 いゃぁ、そない言いますが、家主はん、わたいが嫁はんに逃げられたちゅうのは二へんや三べんのことやおまへんさかい
家主 そんなおかしなことを自慢するもんやないで。まったく、今度の嫁はんのおさきさん、ええ女やったやないかい。えぇ、ようできたお人やったで。あの人が我慢でけへんやなんて、よくせきのこっちゃで。いったいどうしたんや?
男 いゃ、それでんねん。これは話せな分かりまへんが、わたい、朝、寝てましてん。そしたら、おさきがわたいの枕元に座って、「なにしてまんねん、早う起きて仕事にいきなはらんかぁっ!」と、そんな無茶なことを言いまんねんで
家主 何が無茶なことがあるもんかいな。朝が来たら仕事に行くのは当たり前やないかい
男 そら当たり前やねんけどね、「今日はちょっと腹が痛いさかいに、休ましてくれ、頼むわ」と言いましたら、「何を甘えてなはんねん! ごちゃごちゃ言うてんと、早う仕事に行てきなはれぇっ!」と、わたいの寝てる布団をぶわぁっと引き剥がして...
家主 いや、そらいかん、そらいかん! こら話は双方聞いてみないかんちゅうのはこのこっちゃ。男ちゅうもんは年がら年中、毎日々々、表へ出て働いてんねやないかい。年に一度くらいは腹痛いちゅうて骨休めする、そのくらいのことは当たり前のこっちゃ。こらおさきさんがいかん。それはおさきさんがいかん!
男 いや...あんた、そう興奮しなはんな。いや、そこでんねん、話はね。そら一日だけのことなら、おさきもあんなきつう言うことも無かったやろと思いますねん。
家主 ん? こら話がややこしなってきたで。その日一日だけやなかったんかい?
男 その前の日は頭が痛い、ちゅうて
家主 ほう!
男 その前は腰が痛いちゅうて...
家主 その前もかい!?
男 さらにその前は...
家主 いつまで行くねん! いったい何日ほど休んでたんや?
男 まあ...ざっとふた月あまり...
家主 ...ようそんなのんきなことを言うてんな。で、ようおさきさんも我慢したもんや。いったい所帯はどうしてたんや?
男 いやぁ、それでんねん。おさきが手内職しまんねけどね、女の手内職くらいではこの腐りかけた家の家賃にも...あ
家主 おまはん、いったい誰と話をしてなさる?
男 ハッハッハ
家主 ハハハやあるかい! まったく。なんでもおまはん、ハハハっと笑うたらええと思うてんのやないか?
男 いやぁ、そういうわけやないんですけどね、わたいがあちらこちらから借金したりね
家主 ほう...おまえさんの知り合いには、おまえさんのような頼りない男に金を貸そうというような、奇特なお方がぎょうさんいてはるのかえ?
男 そんな皮肉な言いようしなはんな。いや、これはちょっとコツがおまんねん
家主 コツが?
男 これ、あんただけに教えてあげます。よそへ行って言いなさんな、やりにくうなりますさかいに。「二十五銭貸してくれ」て言いまんねん。「二十五銭」て。これがコツですねん。
家主 二十五銭? こらまた半端な
男 半端でしょ。これが嘘でも二円、三円、五円とまとまってきてみなはれ。みな言いまんがな。「二円、持ち合わせないで」と。またそんなぎょうさんな金だったら「ひょっと返してくれなんだら、困るな」と、断りたいし、断ることもできまんがな。ところが、これが二十五銭くらいの金やったら、大の男が「持ち合わせが無い」とは言えまへんし、また、「ひょっと返してくれんでも、まあ何とかなるか」と思いますがな。妙なもんで必ず貸してくれます。貸してくれたらこっちのもんでんがな。これが二円、三円、五円とまとまってきたら、「返してくれ」とも言いやすい。二十五銭くらいねぇ...大の大人が「こないだの二十五銭、どうなってます」とは...人間なら恥ずかしいて、言えませんで。あっちから二十五銭、こっちから二十五銭。借りたもんも催促されなんだら返さんでよろしおまっしゃろ? 二十五銭ちゅうても三銭や五銭やおまへんで。そこそこまとまったモン、買えまっせ。あっちこっちから二十五銭借りて、ここふた月ばかり...
家主 悪い男やなぁ、お前は...ようそんなこと思いついたなぁ!
男 ...家主さん、実は折り入って頼みごとがございます
家主 お、改まってなにかいな?
男 二十五銭貸してもらえませんか?
家主 あほなこと言いなはんな! わしに今、その話をして、その舌の根も乾かんうちにわしに二十五銭せびる!? その神経が面白いなぁ、どついても音のせん男ちゅうのはお前のこっちゃ!いや、わしはおまはんが誰とひっつこうが別れようが、家賃さえちゃんと入れてくれたらええこっちゃ。で、家賃のほうは?
男 それは二十五銭づつなんとかしながら、へぇ、ナニいたしますので、へぇ、すんまへん! へぇ...へぇ...えぇ? ええ人やなぁ、わしあの人、好きや。ひょっと向こうが嫌うてるかもしれんけど...あ、松っちゃん、松っちゃん、ちょ、ちょっと二十五銭...あぁ、行てしもうた。ハッハッハ、まあしゃあないなぁ、おととい借りたとこやもんなぁ。ハッハッハ...さっぱりわややなぁ。大声出しても腹が減るだけやなぁ...起きててもしゃあない。寝てしもたろ...
面白い男でございまして、ごろんと横になるなり寝てしまいまして、どのくらい経ちましたか、ふと気がつくと枕元に、なにやら痩せーた年寄りが汚ーい着物を着て座っているような...様子で...
貧乏神 おう、起きよったな
男 な、なんじゃい、お前は!? 人のうちに勝手に入り込んで、お前、なんじゃ!?
貧乏神 大きな声を出すな。わしゃこの家にいついた貧乏神じゃ
男 えぇっ!?
貧乏神 貧乏神...
男 えぇっ!!?
貧乏神 貧乏神...
男 貧乏神!!? あぁ、貧乏神て、あの貧乏神!?
貧乏神 貧乏神に「あの」も「この」もない
男 はっはー、初めて見るなぁ。二十五銭貸してくれ
貧乏神 ......わしゃ、ちと、そなたに言うてやりたいことがある
男 そなたに言うてやりたい? なんだんねん?
貧乏神 ちと、精出して...働け...精出して...働け
男 へっ、あんたほんまに貧乏神か? 貧乏神が「精出して働け」てなこと言うわけないやないかい。貧乏神ちゅうもんは人間が貧乏してんのを見て、「へへへ...へへへ」と笑うてるてのが、それが貧乏神やないか? 精出して働けてなことを言うのが貧乏神か?
貧乏神 お前は少し勘違いをしておる。人間が貧乏するのを楽しむ、貧乏神はそういうものではない。人間が一所懸命働く、その養分を吸い取ってわれわれは生きている。えぇ、人間が一所懸命に働きゃこそ、養分と言うものもわれわれは吸い取ることがでけんねや。えぇ、お前とこ、吸い取る養分も何もないやないか。まったく、どんならんで。えぇ、働け!
男 ......けったいな貧乏神やなぁ...よう働かん!
貧乏神 お前...そんなこと言わんと働け。えぇ、これから寒うなってくると大変やぞ。世話するもんもおらんようになってしもうて、食うもんは無いようになってしまうわ...堅う冷とうなってしまうぞ...ヘッヘッヘ
男 そんなもん、ほっといてくれ! わいが勝手に堅う冷とうなるんやさかい!!
貧乏神 ...いや、そんな...大きな声、出しなぁ...そら、ほっとかれへんがな...
男 なんでや!
貧乏神 いや、そないなことになってしまうと、管轄が死神のほうへ移ってしまうでしょ、するとわたいが他所へ行かんならんがな...ここへおることがでけん...
男 他所へ行たらええが!
貧乏神 いや、あんた、そんなあっさり言うけど、わたいがもうちょっとしっかりした貧乏神ならそれもでけるけど、わたい、どっちかというと頼りない貧乏神ですさかいに、あんたとこくらいがちょうどわたいの性に合うとんです...すみませんが、働いてもらえませんか...
男 貧乏神に頼まれて働くちゅうのもゾッとせんが...まぁ、働いてもええけど、残念ながら道具箱が無いからなぁ
貧乏神 えぇ? 道具箱、どうしてん?
男 どうしてん、て、あんたも貧乏神なら、その辺の頭、働かせんかい! 行くとこは決ったぁるやないかい。質屋や、質屋行ったぁるがな!
貧乏神 どんならんで...職人が道具箱を質屋へ置くやなんて、自分の首を自分で締めてるようなもんやないかい...早う出して来い...
男 え!?
貧乏神 早う出して来い...
男 どうして出すねん!?
貧乏神 どうして、て、何とかして出して来い
男 どうすんねん!!??
貧乏神 どうすんねん、て、そんな大きな声出しない...なんとか...
男 なんとか、て、何とかなったら、今までに何とかしてるやないかい!!! もう二十五銭の口、あきへんねん。もうほとんど、回るとこ回ってしもうたんや。もうどうにもでけへん!!
貧乏神 そんな...どうにもでけへんやなんて...
男 で、ビンちゃん、お前、どうやねん!?
貧乏神 ビ、ビンちゃん?? あの、あんまり心安う呼ばんように
男 お前、どないやねん?
貧乏神 わたいが...なんですか?
男 お前がなんぼか持ってんねやったら、それ借りて道具箱受けだしてくるやないかい!
貧乏神 ...あのね、親しき仲にも礼儀ありちゅうことばがあってね、そんなこと、わしに言うな
男 あ、貸してくれへんの、あぁ、ええよ、ええよ。どーせどーせ、わいはもう...堅う冷とうなろ
貧乏神 ...貧乏神を脅してどうすんの...なんぼ? ...わずかな金で......うっうっ...情けない...
男 お、貸してくれんの!? 辛いなぁ!
貧乏神 辛うのうてか! 他で言いなや!
document.write(
のんきな男で、貧乏神に金を借りまして、道具箱を受けだして参りまして、しばらくは仕事に出ておりましたが、さて、ひと月ほどいたしましたある日のことでございます。);
ヨシ おう!
男 なんじゃい、ヨシかい。こっち入れ
ヨシ こっちはいれやないで、お前。ひと月ばかり仕事に来たと思うたらまた来んようになってしもうたやろ。親方がえらい心配して、嫁はんに逃げられたちゅうことも聞いたし、あいつ、食うもんものうなって、堅う冷とうなってしもうてんのとちゃうか、いうて親方も言うもんやからな、わいも心配になって仕事の帰りによってみたんやけどな。お、なんや、前より肥えたんとちゃうか。顔色もええやないかい。うちン中も片付いてるし。ひょっとしたら新しい女が...
男 あほなこと言いない。なんの! おれがどんな人間かちゅうことがどうやら世間に知れたようで、嫁さん世話しょうか、ちゅう人間も無ければ、嫁はんに来ようちゅうおなごものうなってしもない。そんなん、あれへんあれへん
ヨシ そんなこと言うたかて、えらい元気そうにして、誰といっしょに?
男 お前、ここに入ってくるときに誰かにあえへんかったか?
ヨシ え? そういや、汚いおじんが、なんやたらい持ってひょこひょこ歩いてたが...
男 やっぱ、会うたやろ。会うたやろ。あれや、あれと一緒に住んでんねん
ヨシ あれ、て、あれ何や
男 貧乏神
ヨシ へっ
男 貧乏神
ヨシ 貧乏神...ちゅうたら、あの...
男 貧乏神に「あの」も「この」もない、てわいも怒られた...あの貧乏神や
ヨシ あ、あのおじんが
男 おじん言うたら、聞こえたら怒りよる。あれでも業界では若手やちゅうてた
ヨシ で、なんで...ほう、ほう...貧乏神に金借りて?
男 さいな、とりあえず道具箱を受けだしてきたんや。で、しゃあないさかい、義理にでも仕事に行たんや。行たやろ、行たやろ。で、そのあと雨が降りよった。十日ほど続いたやろ。あの長雨、あれでまた怠け心が芽ぇだしてしもうた。もうあかんがな。働きにいく気ぃないがな。そのままひと月ほどな、家んなかでゴロゴロしてる、てなわけや。
ヨシ で、貧乏神は?
男 そういな。貧乏神も始めのうちは「仕事行けー」「仕事行けー」てなことを言うてたけど、なーんの、貧乏神ごときに負けるようなわいとちがうで。とうとう根負けしよった。動かんわい、こっちは。とうとう向こうが根負けしよってな。「しゃあないな」ちゅうなもんや。というのが家賃だけは納めんと、あの男もここ追い出されてしまうがな。家賃だけなと、なんとかせんといかん、ちゅうて、とりあえず内職始めよった。始めは爪楊枝削りやりよったけどな、両方とも削って貧乏削りしてしまいよって、えらい問屋に怒られよった。しゃあないさかいに、この頃は近所の洗濯もの集めて、一所懸命洗濯しながらわずかな手間賃もろうて細々とやってるてなもんやけどな
ヨシ ......よう考えてみると、貧乏神の上前はねてんねやがな...えらい男もあったもんや、ここまで来たらもう怖いもんないなぁ...
男 いや、実はお前にちょっと相談したいことがあるんや、ちょっと出よか。いやいや、ここにはなんもない。ただ片付いただけや、茶の一杯もあれへん...え、いやいや、それは大丈夫や。そこの汚い袋あるやろ、それ、取って。
ヨシ なんや、これ
男 貧乏神の頭陀袋。こんなかに銭が入ってんねん。ちょいちょいここからおかず買うたりしてんねん
ヨシ そんなん、手ぇつけて大丈夫か? バチ、当たりよらんか?
男 バチ!? そんなん、あいつとわいの仲や! 心配ない、心配ない。よしんば当たったとしても、わい、これ以上、下あれへん。ひょっとしたらなんかの拍子に上へ上がるかも知れへん。さあ、どうや...ほれ、見てみい。なんぼか入ったぁる。みな持って行たら可哀想や。なんぼか残しといたろ...まぁ、これくらいあったら、なんぞのときに間に合うやろ。さあ、ついといで、ついといで。ビンちゃん! ちょっと出かけるわ!
貧乏神 お出かけですか?
男 いつも話ししてるやろ、ヨシや!
貧乏神 ああ、ヨシさん。あの、うちのからいつもお噂だけは
男 えらい愛想がええやろ。ちょっとこんなことしにいってくるさかいな、先に飯、食うとってくれてええで
貧乏神 あ、そう...お早うお帰り......?? わし...なんでこんなことしてんねやろ...ズルズル、ズルズルと、いつの間にか、こんなことになってしもうた。今日、出て行こ、明日、出て行こと思てるうちに、こんなことしてんねん、どんならん...あぁ、お松はんちのしん坊や...醤油こぼしたら、あと水洗いなとしといてもらわんと、後で洗うモンの身になってくれんとどんならん、シミになってしもうたる、どんならんで...いよっとせ...ととと...あー、朝から晩まで座ってるもんやさかい、腰が痛うて...あぁ、ええ夕焼けやなぁ、明日もお天気や...洗濯物がよう乾くで...なんや、戸が開けっ放しや...あいつのああいうとこが嫌いやで、開けたら開けっ放し、締まりの無い男や。おのれは盗られるもの無いやろうけど、こっちは頭陀袋...ま、まさか...や、やりよった...やられたぁ...案の定や、もうあかん。もうこの家出よ。ここにおったら取り殺されてまうわ。こんなもん、どっちが貧乏神や分からん!
男 いやぁ、ビンちゃん、いやぁ、済まんかった、えらいありがと、いやぁ、久しぶりにこんなこと、さしてもらいました、いやぁ、ありがと、ありがとはははは、いやぁ、ええ按配や、やっぱ酒はええなぁ...ビンちゃん、こんどいっしょに行こか...ビンちゃん、ビンちゃん? えらい機嫌が悪いな、ビンちゃん...え、この家出ていく? ありゃぁ、あそう...ごめん、いやぁ、ついにその言葉、聞かなあかんようなことになってしもうた。いやぁ、今日言われるか、明日言われるかと気にはしててん。こんなこと、いつまでも続けられるわけあれへん、いかんなぁ、と思うてはおってんけどなぁ、頼れる人がおったらついつい頼ってしまう、わいの悪い癖や...あぁ、そう。やっぱり出て行く...仕方ないなぁ、ちょっと待ってや。何も無いけど、これ餞別...
貧乏神 そんな、お前に餞別もらうやなんて
男 いや、これお前の銭や、さっきもろうた...
貧乏神 あ、まぁ、そんなことやとは思うた。しかし、まぁ、気持ちだけもろとく
男 いや、ほんまやで、わいも恩返しはできん、何十年、何百年かかってもお前に恩返してなことをできるような甲斐性のある人間や無いけどな、また、いつかどこかであいましょう
貧乏神 ......いや、お前にそんな優しいに言われると、わいかて出て行くんが辛うなってしまうやろ...お前が悪い人間やないちゅうことは分かってんねんからな、できることならおってやりたいんやけどな、そうするとお前のためにならんさかいに、心を鬼にして出て行こ。お前は頼るもんがあったら頼ってしまう人間やからな。しかしな、ほんまのこと言うたらな、わいも喜んでんねんで。そうやないかいな、貧乏神ちゅうたらなんちゅうたて嫌われモンやないか。それをひと月ほどの間、嫌がりもせずに気持ちよう一緒に...グスッ、おおきい、ありがと...身体だけは気をつけてな。わいがおらんようになったらもう世話するモンもおらんようになってしまうやろ。これからおいおい寒むうなってくるさかいにな。疫病神の方にも通知だけはしとく。なるべくあいつのとこには取り付くな、ちゅうて言うとくけど、向こうにも都合ちゅうもんはあるさかいにな、せんならんことがあるさかいに、お前の方に回ってくるかも知れんけど...身体だけには気ぃつけてな...さいなら!
男 ビンちゃん、ビンちゃん、お前、これからどこ行くんや?
貧乏神 どこて、仕方ない、またどこぞ探して...
男 ビンちゃん、よかったら、お前の行き先、わいに世話させてもらえんか
貧乏神 何言うてんねん、どこぞの世界に貧乏神に来て欲しいなんて...
男 いやいや、あんねん、さいぜん来よったヨシ、あいつもワイとおんなじような気性の人間や。お前のこと、嫌がったりせぇへん、せぇへん。それにあいつもな、こないだ、嫁はんに逃げられよったンや


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